記事タイトル→2008-03-14 Fri  お別れの日記事タイトル←

そろそろ卒業式なので卒業小説です。
中学の。高校にすると流石に自分と重なりすぎるなぁと思いまして。

でもあれだな。
僕は保健室なんて利用したことほとんどないし、
保健室の先生が美人ってまずありえない気がするな。
そして僕は本当に年上好きだな。*
 前に立っている女子が突然泣き出した。普段は騒いでいるくせにこういうときだけでしめやかになるというのは、どうも納得がいかない。目だけ動かして回りを確認すると、男子で泣いている奴なんて一人もいやしない。ただなんとなく居心地悪そうに苦笑いを浮かべていたり、俺と同じように周りをちらちらと見ているだけだ。普段は明るい奴のほうが泣いているようで、女子でも、休み時間に読書に励んでいるようなタイプは別段感慨もなさそうだ。学校にたいした思い出が無いということなのかもしれない。そうなると俺なんかは泣いてもよさそうではあるのだが。

 卒業生代表のスピーチが終わった。結局よく聞き取れなかったし、誰なのかも知らない。生徒数が多いからしょうがないのだろうが、退屈この上ない式だ。かといってこれだけ密に詰め込まれては、途中で抜けるわけにも行かない。それに親だって保護者席で見ているはずだ。

 前のほうの生徒がぞろぞろと立ち上がり、それにつられて立ち上がる。校歌斉唱であることは雰囲気でわかったが、校歌の歌詞まではわかりようもない。口パクするのも馬鹿らしく、立ったまま周りが歌うのを聴いてみるが、講堂では音が無闇に響いて歌詞はほとんど聞き取れなかった。女子が泣いているのも原因なのであろう。シメヤカでオゴソカな式は、少なくとも俺にとっては馬鹿らしいだけだった。

 着席し、しばらくしてまた壇上でごそごそと人が動いたらしかった。時計を見てもどうも時間の進みが遅く、退屈極まりないこの時間は長く続いた。音楽部の演奏でやっと退場したころにはくたくただった。講堂の外ではすでに感極まった女子たちが集まって泣いており、男子たちは居心地が悪そうにそれを眺めてにやにやしていた。
 その輪に混じる気にもなれずぼんやりと辺りを眺め、結局、いつものように保健室に向かうのだった。
「あら、卒業式終わった?」
 首から聴診器をかけて、その上で音楽を聴いていた先生は、俺に気がついてイヤホンを取った。
「仕事中でしょ? 音楽、聴いてていいんですか?」
「だって誰も来ないんだもの。どうしたの? 卒業式の後は教室集合でしょ? 卒業証書、貰えないわよ」
「気分悪くなったってことで。人が多い場所苦手だし」
「こんな日までサボらなくてもいいでしょ。たまにはまじめに教室に行きなさいよ。クール気取らないでさ」
「別に気取ってないですよ。実際、疲れましたし」
 そういって保健室のベッドに倒れる。弱いスプリングが耳障りな音を立ててゆれた。聴きなれた音だ。
「じゃあ熱測って」
 先生はデジタルの体温計を投げてよこした。起動して脇に挟むものの、まともに体温を測る気など無い。先生もそのあたりは十分にわかっているはずだ。
「いや、委員長も卒業か。残念ね」
「普通、こういうときはおめでとうっていうんですよ」
「でも、私は有能なパシリを失うのよ?」
「有能でもないですよ」
「あら、三年間まじめに委員会活動したじゃない」
「まじめにやってませんし、まじめと有能とは関係ないです」
「そうね。でも君はまじめで有能じゃない」
「褒めても何も出ませんよ」
「素直じゃないわね。中学生らしく恥ずかしがったら?」
 先生はそういってちょっと笑った。その笑いはどちらかといえばある種の嫌悪感を引き起こすものだ。
「もう俺も高校生になるんで」
「そうよね。今日卒業だものね」
 先生はそういってまた笑った。ガチャガチャという音が時折聞こえるのはおそらくコーヒーでも淹れているのだろう。
「高校どこだっけ?」
「何回目ですか、その質問」
俺はこのあたりでは一応有名な進学校の名前を挙げる。
「ああ、そうだった。頭良かったのよね」
「別に。所詮受験勉強ですよ」
「そうね。それはそうよ。コーヒー、いる?」
「いただきます」
 それでようやくベッドから起き上がる。先生からマグカップを受け取るが、熱くてまだしばらく飲めそうに無かった。
 マグカップを持ったまま口をつけようとしない俺を見て、先生は笑い出した。
「何がおかしいんですか?」
「あー、いや、確かほら、あなたが一年のときもこんなことあったなぁ、って」
 確かに俺は中一の入学式のとき、これは本当に気分が悪くなって保健室に行った。教師に運び込まれてしばらくすると、新任の挨拶をするはずだった先生が廊下をどたどたと走ってやってきたのだった。
 先生は俺の熱やら脈やらを明らかに必要以上に細かく調べた挙句、特に処置をすることもなくベッドに横になるように指示した。しばらくすると講堂から人が出てきたらしく、廊下から喋り声や足音が響きだした。なんだかいたたまれなくなった俺は起き上がり、実際もう体調も戻っていたので教室に行こうとした。すると先生はそんな俺を余裕を持って押しとどめ、コーヒーを差し出したのだった。
 小学校を出たばかりだった俺はコーヒーを飲みなれていなかったがそれを受け取り、少しすすったがまだまだ熱いその液体は唇を攻撃した。
 そんな様子を見て、先生は笑っていったものだった。
「ほらほら、焦らない、焦らない。あなたのペースでゆっくりしてな」
 もちろん、このことはコーヒーをもらった時点で思い出していた。いや、保健委員としてこの部屋に来るたびに、先生がコーヒーを飲んでいるのを見るたびに思い出すエピソードだ。
「あー、しかし、私も歳を取るわけよね。君が高校生になるんだものなぁ」
「今年でいくつでしたっけ?」
「君プラス十歳。というか女の歳は聞かないの」
「すいません」
「まあいいけど。しかし、君もほんと大きくなったよね。中一のころ、身長いくつだったっけ?」
「百五十ぐらいでしたね、たぶん。今は百七十」
「一年で七センチ? 成長期にも程があるって」
「すいません」
「なに謝ってんの。いやぁ、でもあれね、立派に男になったものだわ」
「意味がよくわからないんですが」
「中一のころは子供だったけど、まあちゃんと大人っぽくなったじゃない。高校行って彼女作ったら紹介して」
「男子校なんですけど」
「そうだっけ? じゃあ彼氏できたら・・・いや、やめてね?」
「当たり前です」
 ようやっとコーヒーに口をつける。これも砂糖、ミルクなしで飲めるようになるには結構時間がかかった。本当は生徒にコーヒーをあげちゃいけないらしいが、先生はそんなものを気にするような御仁ではない。
「あ、そうそう」
 先生はそういって棚からファイルを取り出してきた。保健室便りが綴じてあるものだろう。
「これ、あげる」
「は? いりませんよ」
「だってこれ、ほとんど書いたの委員長じゃない」
「先生が喋ったのをまとめただけです。大体、俺が書いたのだとしてもいりませんよ」
「いやいや、委員長の協力なしには一枚も出来なかったわ」
「先生が書こうとしないからです。俺が卒業したあとはどうするつもりなんですか?」
「あー、どうしよ。副委員長、そういうのやってくれなそうよね」
「彼女はまじめですから先生に書いてもらいたがるでしょうね」
「高校行っても書いてくれたりは?」
「しません」
「あ、じゃあそうだ、いいこと思いついた。君が一年のころに書いた奴をそのまま使えばいいじゃない。君の学年はみんな卒業したから、誰も気がつかないし」
「そんなくだらないまねはやめてください。自分できちんと書いてくださいよ。というより、普通は先生が書くんです。俺が三年間代筆していたのがおかしいんですよ」
「あーあ、留年してくれれば良かったのに」
「誰がするか」
 コーヒーをようやく飲み終え、マグカップを先生に渡す。この一連の動作も、この三年間何度繰り返しただろうか。
「副委員長といえばさ、彼女、君のこと好きだって言う噂聞いたけど?」
「なんですか、それ。どこで聞いたんですか?」
「委員会の中でまことしやかに語られている噂よ」
「聞いた事もないです」
「そりゃ当事者には聞かれないように話すでしょ。どうなの? 告白とかされちゃったりは?」
「ないです」
「第二ボタンください、って来たら?」
「今時そんなの流行りませんよ。それに、彼女はそんなに頭が悪くありません」
「それ、どういう意味よ? 私が中学ぐらいのときは、結構第二ボタンを奪い合っていたわよ」
「そういう意味じゃなくて、俺を好きになるほど頭が悪くないってことです」
 委員会にいて俺を好きになる奴は、さすがに観察力がないとしか思えない。
「ふーん、そんなものかな」
「そんなものです」
 会話が少しの間途切れた。先生もコーヒーを飲み終えたらしく、カップを机に置く。
「さて、そろそろクラスに行ったら? 担任が感動する話の一つや二つ喋っているかもよ?」
「興味ないです。まあ、邪魔なら行きますけど」
「邪魔ってことはないね。お客さんは他にいないし。ただまあ、あとで報告しなくちゃいけないのが面倒」
「いつもどおり適当に書いておいてくださいよ」
「ああ、そうだ、体温計、鳴った? ていうかコーヒー飲んじゃ駄目じゃない」
「三十七度五分あたりで」
 俺はベッドの上に落とした体温計を見つけ、エラー表示を消してから先生に渡した。
「あー、もう、また偽装書類か。まあいいや。腹痛? 頭痛? めまい? 恋の病?」
「世紀の奇病ってことで」
「はいはい。奇病ね。症状、無駄口を叩く。卒業式をサボる。処置、コーヒーを百五十ミリリットル。あとなにかある?」
 先生は机に向かって本当に書類に記入している。
「それ、マジで書いたんですか?」
「あたぼうよ。ボールペンでしっかりと」
「ちょっと、見せてください」
「だめだめ。ほら、機密情報?」
「個人情報ですか? でも俺のことでしょ?」
 机の上においてある紙を奪おうと手を伸ばすが、先生は机につっぷして隠した。そこまで隠されるとこちらとしても後に引けない。組んだ腕の隙間に手を入れようとして、ぎりぎりのところで踏みとどまった。
 先生もやりすぎだと気がついたらしく、ばつが悪そうに笑った。
「冗談よ、冗談。適当に微熱ってことにしておいた」
「ありがとうございます」
「あ、ありがたいと思うなら保健室便りよろしく」
「無茶言わないでくださいって」
 それで会話は途切れた。コーヒーの香りのするこの保健室。この三年間の学校生活、思い出はほとんどこの部屋にあるといっていいだろう。これで終わりだ。今はこういっていても、まあ俺が卒業したら先生だってまじめに働くに決まっている。それで何事もなかったように時間は流れて、俺が高校を卒業するころに先生は結婚でもして退職するのだろう。同窓会で中学に来ることはあっても、そのころに先生がいるかはわからないわけだ。
「ねえ、委員長」
「なんですか?」
「三年間、お疲れ様でした」
「・・・ドウモ」
「ありがとうね」
「こちらこそ、ありがとうございました」
 俺は深々と頭を下げた。泣くかとも思ったが、どうも自分で思っている以上に薄情らしい。
その頭の上に先生の手が置かれた。撫でてもらってうれしい自分がまだまだ子供で、情けないような複雑な気持ちだった。
 先生の手が離れてから顔を上げた。
「じゃあ、教室戻りますね」
「はいはい、まあ涙の一つでも流してきなさい。そういうのも大事なステップよ」
「ステップ?」
「大人への、ね。・・・うわ、今の私、かっこいいな」
「先生はいつもかっこいいですよ。じゃあ」
 最後にそういい残して、保健室を出た。教室に行けばそれで卒業だ。保健委員長と保健室の先生という関係はこれで終わる。
「さっさと大人になりてー」
 そう呟いて、三階にある教室に向かって階段を上り始める。
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コメント→No.1744 コメント←

僕の今日のNAME、花粉症の人へ喧嘩売ってんだけど。

小説についてのコメントではありませんけど、ひとつよろしいでございましょうか。
卒業してもブログはもちろん続けるんだよね?

コメント→No.1745 コメント←

うーん、いいねぇ
2008-03-16(Sun) ・ 投稿者[cyclist] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1746 コメント←

卒業式なんぞ早く終わってしまえ、と思っていた事を思い出しました。
そうです、私は「女子でも、休み時間に読書に励んでいるようなタイプ」でした。

いやぁ、いいですね

2008-03-17(Mon) ・ 投稿者[七草 十四子] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1747 明日卒業ですね。とにかくおめでとう。コメント←

何となく我らが武蔵賛歌の経緯を調べようと色々ググってたら見つけてしまったー。J1C4番です。A内、A木、A城、A井(←これ)、A賀・・・懐かしいですね。

これからニヤニヤしながら過去ログ読んでみますね。
2008-03-17(Mon) ・ 投稿者[同学年文化部] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1750 コメント←

>S川さん
続けますよ。たぶん。

>cyclistさん
まあただの妄想っていえばあれですけどね。

>七草 十四子さん
いやまあ偏見ですのであまり気になさらないで下さると助かります。
僕も読書しているほうですし。

>Aくん
ほんとね。身内にばれるのがいやでいやで・・・・
まあ広めないで下さると助かる。そして過去ログはやめたほうがいい。頼むからやめて。
2008-03-18(Tue) ・ 投稿者[G-song] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1758 卒業か〜♪コメント←

高校も、大学も卒業式に出なかったことを思い出しますよ♪
卒業ということより、次に訪れる新しいことのほうが楽しみでわくわくしていたなぁ〜♪

保健室の先生…いいなぁ〜憧れるな♪
学校の先生になるのは止めたけど、こういう先生になら、なりたい(←?
相変わらず、いい雰囲気出してますね!

ふらりと立ち寄って、素敵な気分にさせてもらえる、私にとって保健室のようなブログですからね、ここは。
今回もコーヒーの香りをいただいて帰ります♪ではまた♪
2008-03-25(Tue) ・ 投稿者[らんらら] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1761 コメント←

>らんららさん
で、でなかったんですか?ど、どうしてです?
あまり個人的な理由で出たり出なかったり出来るものでもないように思えますが。

僕も結構教師はあこがれますね。これぐらい適当でいいならなおさら。
2008-03-25(Tue) ・ 投稿者[G-song] ・ 編集 ・ Top

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