記事タイトル→2007-12-23 Sun  聖夜記事タイトル←

リンゴの皮をむいていたら日付が変わってしまっていました。
明日もそうなる可能性があるので、今のうちに小説をアップ。

クリスマス小説ですが少しも明るくもなく大してクリスマスでもないです。
毎回、短編を書くときはいろいろと挑戦している課題や目標がありまして、
今回は一人称小説でありながら一人称小説ではない、というものです。
本文中に「僕」「俺」「私」「拙者」「我輩」「某」「愚」「臣」「妾」といった一人称を使っておりません。
「妾」とか使うのは逆にアリのような気もしますけど。
あと、これはたまたまですが、台詞というか「」がひとつもないです。
なのでものすごく読みづらいと思います。
ワードか何かにコピペして縦書きにするとまだ読めます。たぶん。

というかここまで読みづらいとなると、
今後短編小説をここでアップするのはやめたほうがよさそうだ。*
 風呂、トイレ、ガスレンジに、布団を敷くとそれだけで三分の一は使ってしまう程度の狭い和室。たったそれだけのこのアパートに不満があるとすれば、隣室から流れてくる煙草の香りだろう。大学に合格して念願の一人暮らしを得、布団の中でそんなことを考える。確かにあまりきれいな部屋ではないし、大学からも遠い。しかしそこのところは家賃からしてしょうがないものだ。長年兄弟と相部屋でプライバシーのかけらもない生活を送ってきた身からすれば、一人で居られるというだけでたいていのことは我慢できる。それでも、この香りには慣れない。副流煙というほどでもなく、ただ煙草を吸う人に特有の香り、ちょっと前まで誰かが煙草を吸っていたような香りが、隣室から流れ込んでくるのだ。

 隣室の住人は、ちゃんと会ったのは越してきたときの一度だけだが、五十はいってそうな男だった。無精髭で覆われた不機嫌そうな顔をこちらに向け、挨拶の品を受け取ると礼も述べずにドアを閉じた。言い方はよくないかもしれないが、元ホームレスや前科者といわれても信じ るだろう。とにかく、そんな男だ。

 そのときも、男がドアを開けた途端煙草の匂いがしたのをおぼえている。別に癌がどうとか嫌煙権を主張したりするつもりはないが、それにしたって男が不健康であることは明白だったし、男の吸う煙草の量は異常だった。

 大学に入って煙草を吸う友人や先輩も出来たが、彼らは、言うならば節度を持って煙草を吸っていた。周りが嫌そうな顔をするとすぐに吸うのをやめたし、それ以降は人前じゃ吸うのに気を使うようになる。男とは根本的な何かが違うように思えた。依存度ということもできるのかもしれないが、少し異なるようにも思えた。

 このアパートにさしたる不安があるわけではないが、親はこの環境をあまり良いものと見なかったらしい。とりあえず他になかったので一時的にここに暮らさせているという認識が強いようだ。夏に一度帰ったときも生活のことを心配するような発言を繰り返し、そのたびに、絶えず視界に入る弟たちのことを思えばたいした不自由じゃないといいそうになった。

 それでも別にこのアパートに固執する理由もなく、引っ越し先を見つけるということになった。アパートを紹介する雑誌を見るものの不動産屋を訪ねるのも電話をかけるのも面倒で、結局だらだらとここに暮らしている。現状に不満を抱いて送る生活はさほど楽しいものじゃないと思う。満足できればそれでいいのだ。多少の不便はどんなところで暮らしても出てくるだろうし、ここの不便さは即物的であるだけわかりやすかった。人が無闇に訪ねてくることもなく、穏やかに自分勝手な生活を送れる。

 だが、正月に帰省することとなり、戻って引越し先をいまだ見つけられてないとなると何を言われるかわかったものではなかった。重い腰を上げて寒い中不動産屋を訪ねると、手ごろな物件はあっさりと見つかった。春に見つけられなかったのが不思議に思えてならなかったが、とりあえずその旨を実家に伝えたところ、たいそう安堵してさっさと契約しろといい、次の日には敷金礼金分の金が口座に振り込まれていた。ありがたいほどの過保護で、それを少し鬱陶しく思った。

 後日、厚いめがねをかけた慇懃な男に連れられて下見に行ったが、文句をつけるところはなかった。明らかに今住んでいるアパートより日当たりも場所もよく、それでいて家賃もそう大きく変わりはしなかった。もっとも金は親が払うのであって気にすることでもなく、ただただ案内する男のめがねの厚さとその態度が気に触った。卑屈であるというよりは、仕事だから丁寧にしているというのが見え見えだった。こちらとしても偉そうにしたいわけではないのだ。しょうがないから学生相手に頭を下げているというようなその態度はやめろ。そんなことを考えながらも笑顔を浮かべて男の説明を聞いていたのだから、人のことは言えなかった。

 見学を終えて部屋に戻ると、隣室の男はすでに帰っているようだった。普段は深夜にならないと帰ってこない男にしては珍しいことだ。部屋に入りすぐに開け放したままにしていた窓を閉めたが、それでもすでに煙草の煙は入り込んでいた。寒さとこの匂いは寒さにしびれた鼻に、思ったよりもよい組み合わせのようだった。火から生まれた煙と寒さという組み合わせ。矛盾しているようで、それでいて煙草が暖房に当たるとすればあながちおかしくもない組み合わせのようだ。

 翌日、また不動産屋を訪ね、正式に契約を済ませた。いつから入るかといわれ、今住むアパートの大家に何も話していないことを思い出した。人のよさそうなおばさんで、アパートの運営は生活よりも趣味としての意味合いが強いのだろうと一目でわかった。入居する日、いろいろあるからと言って付いてきた母と親しげに会話していたのをおぼえている。そのとき、自分のことを親だと思って、というような、まるでドラマのようなことを言っていて、笑いをこらえるのに苦労したものだ。

 そんな大家に、アパートを出ることを伝えるのはなんとなく億劫だった。口篭ったのを見て破談の気配を感じたのか不動産屋は慌て、年内か年明けかだけを聞いてきた。年明けになるであろうことを伝えると、なら細かい日はまたお教えください、といって無理やり契約を済ませた。新しいアパートの大家もその場にいたが、どちらかといえば意地悪そうな男で、煮え切らないこちらの態度に不服そうだった。

 そんな不明瞭な形でも、確かに引越しはだんだんと具体的になってきていた。正月に帰省することを踏まえても、その前に準備は済ませておいたほうがいいだろう。まとめるほどの荷物もなく、大学が冬休みに入ってすぐにいくつかの段ボール箱が出来上がった。

 大家に話を通すのも、思ったより苦労はなかった。ただ、少し驚いたのは、部屋を出たがっているのは隣人のせいではないかと尋ねてきたことだ。無論すぐに否定したが、大家は隣の男について語りだした。思ったとおり定職には着いていないらしく、日雇いで金を稼いでいるらしい。その無愛想な態度が大家には気に入らないようだが、家賃はきちんと納めているらしく追い出す理由もないらしい。ただ煙草についてはやはり他の部屋からも苦情が出ているそうだ。過去に、大家が煙草を吸っているのを見たことがある。苦情が出ているとはいえ、大家自身も煙草を吸う手前、強く言うのは難しいようだ。

 男のせいで部屋を出るわけじゃなく、学年が変わって忙しくなる前に学校の近くに引っ越したいだけだといい、今までの礼をこめて何度も頭を下げた。そのころには決定していた引越しの日を告げ、部屋に戻ると急に気疲れがしてきた。まだ昼間だったが、もう寝てしまおうかと思い、布団を引っ張り出す。床に落とすと埃が舞い上がり、窓から差し込む陽で輝いた。気分の良い光景ではない。心持ち息をしないように窓辺により開け放つと、煙草の香りがすぐに鼻に感じられた。

 隣室の男はこのところ部屋にいる時間が長くなったようだ。年末ぐらい休みたいのか、それとも単純に仕事の口がないのかはわからない。先程の大家の話では家賃程度は稼いでいるようだが、男の生活に余裕がないのは明らかだ。年末と借金返済という単語が頭の中でうまく結びついたが、そもそもこの男に金を貸す人や機関があるとは思えなかった。

 埃は気になったがそれでも窓を閉め、カーテンを閉めて布団にもぐりこんだ。寝ようと思うと案外眠れないものだ。自分ひとりしかいない部屋は静寂に包まれ、時折外から車の走る音が聞こえた。

 そんな風にしてどれぐらいの時間が経っただろうか。冬の陽がそろそろ翳り始め、布団から腕を出すと確かに寒い。そんなころ、隣の部屋から物音がし始めた。最初は単にごそごそというだけの動きだったが、やがてそれが止まると声が聞こえ始めた。何を言っているのかはまったく聞き取れなかったものの、その内容がどこか真剣な、いや、切実なものである気がしてならなかった。やがてその声が聞こえなくなり、ドアのほうから大きな音がした。男が部屋を出たらしい。時計を見ると思っていたより時間は過ぎており、どれだけ長い時間隣室から漏れ出る音に気を取られていたのかがわかった。少しして錠の音が聞こえ、男が部屋に戻ってきたのがわかる。煙草を買いにいっていたのだろう。すぐに見当がつき、そして、どこかほっとしてようやく眠りに落ちた。

 帰省する日取りは十二月二十五日、クリスマスに決まった。イブにはサークルで飲み会をするという話もあったが、結局断った。新幹線の発車時刻は朝早く、酒を飲んだ翌朝には辛いものがあった。それに、さほど酒も好きではない。

 イブは結局雪が降ることもなく、ただ薄い雲がそれでもはっきりと空を覆っていた。星一つ見えない聖夜は恋人たちには物足りないかもしれないが、日常生活においては冬らしい一日として評価していいかもしれない。

 デパートで実家への土産をいくつか買い、部屋に帰ると急に疲れが出た。明日のことを思うと何もかもが億劫で、さっさと夕食を摂って寝てしまおうと思い、再び部屋を出た。先程まではまだ明るかったが、荷物を置いて部屋を出る、このわずか数分で驚くほど暗くなっていた。ちらほらと家々に飾られた電光装飾は、白々しい美しさを備えていた。

 近くのラーメン屋で夕食を済まし、帰りにコンビニに寄る。漫画雑誌を読もうとしたが既読感があり、よくよく見ると先週発売された合併号だった。何だか肩透かしを食らった気がして、飲み物だけ買って家路に着く。

 営業を終えてシャッターを閉じた薬局の前に並ぶ自動販売機の前で、ふと足を止める。煙草の自販機が思ったよりも明るかったのだ。そしてふと隣室の男を思い出す。あの男、部屋に居ただろうか。努力してもどうしても思い出せないから、おそらく居なかったのだろう。居たら、煙草の香りで気がつくはずなのだ。どこに行っているのだろうか。クリスマスイブだからといって特別な行動をするような人間ではないだろうが。

 そこまで考えて、クリスマスイブだということを思い出した。イエス・キリストが生まれる前の晩。いや、イエスの生まれる日の始まりだっただろうか。多くの日本人がイエスを信仰するでもなく、ただひとつの祭りとして楽しむ夜。こどもたちにはサンタクロースなんてものも居る。そういえば小学校高学年ぐらいまではプレゼントをもらっていた。中学に入ってからは弟たちにその権利を譲り、親からも、ましてやサンタからも何ももらっていない。

 アパートに戻ると、やはり隣室には誰も居ないようだった。部屋の鍵を開け、少し躊躇った後に上着のポケットを探る。たった今買ったばかりの煙草を一箱、隣のドアの前に置いた。男がどんな銘柄を吸っているのかも知らないため、とりあえず唯一知っていた国産の煙草だ。単に、あの男に洋モクは似合わないと思ったからだが、買ってみるとこの男に相応しいような気がした。

 翌朝、まだ日の昇り始めたころに部屋を出る。これで年明けまでは帰ってこないと思うと、急にこのちっぽけな部屋に愛着が湧いてきた。それでも鍵をしっかりと掛け、いざ駅に向かおうとすると、隣室のドアの前においていた煙草が無くなっているのを見つけた。男はいつの間にか帰ってきていたらしかった。そしてこの差し入れを受けたらしい。何のメッセージもなくただドアの前に置かれた煙草を、男はどんな気持ちで受け取ったのだろうか。越してきた特と同じように、不機嫌そうな顔で煙草を拾い上げただろうか。隣室の学生が送ったものだと、果たして気づくことができるのだろうか。まさかサンタからの贈り物とは思ってくれないだろう。

 何だか愉快な気持ちになって、アパートを後にした。吐く息は白く、確かな冬の厳しさを感じた。もう男と会うことはないだろう。根拠は何もなかったが、そんな気がした。
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コメント→No.1687 ぐっじょぶです!コメント←

あ、挨拶がまず違うし。

あけましておめでとうございます。

年明け早々、クリスマスの小説を読んでいい気分をいただいています。
クリスマスに読みたかったなぁ〜。

去るときになって何かに感謝を感じる気持ち、けじめをつける感覚。そういうのすきです♪
そして何より、クリスマスに媚びていない小説全体がv-344

マメにはこれないけれど、のぞくと必ず何かしら収穫をもらって帰っていますので。今年もまた、のぞいてはコメントを落として帰っていきます♪
よろしく。
2008-01-01(Tue) ・ 投稿者[らんらら] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1688 コメント←

>らんららさん
レスが遅くなりまして大変申し訳ございません。
コメントありがとうございます。
僕もらんららさんのブログには定期的にアクセスさせていただいており、
いろいろと勉強させてもらっております。

今年もよろしくお願いします。
2008-01-21(Mon) ・ 投稿者[G-song] ・ 編集 ・ Top

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