記事タイトル→2007-02-13 Tue  チョコと彼女と冬の終わり 中記事タイトル←

明日までにアップ終了とかさすがに量が多くなるんじゃないだろうか。*
 理由はわからないが、部活がある日はたいてい同じ時間に終る。考えようによってはそれが当然だが、特に計画もなく部活をしていることを思うと、これは不思議だ。そしてもう一つ不思議なのは、それはしばしば吹奏楽部の部活終了時間と一致するということだ。
「よう」
 改札を通ったところで声をかけると、山根女史はゆっくりとこちらを振り向いた。眉間に集まる皺に言い知れぬ迫力を感じる。すばらしい威圧感だ。
「なんでこうも毎回同じ時間なの?」
「俺は知らんよ。っていうかお前、部活あったのか」
「悪い?」
「森井女史を野放しにしないでくれ。柴田が暴走する」
「こっちが頼みたいのよ、それは」
「まあお互い被害者ということだな」
「まったくよ」
 山根女史はため息をついた。さすがに森井女史がいないと吹奏楽部のほうは大変なのだろう。
「今年は寒くないな」
「・・・そーね」
「去年はもっと寒かったような」
「そーね」
「・・・もうちょっとまともな返答は出来んのか?」
「じゃあもっと面白い話題にしなさいよ」
 そういわれても困る。俺を芸人だとでも思っているのだろうか、こいつは。
「今日、柴田がいきなりチョコを買ってきてな」
 口に出した瞬間から話題をミスったことがわかった。かといっていまさらやめられる類のものでもあるまい。案外、山根女史も気にしないかもしれないではないか。
「男がチョコを作るのは西洋では普通だとのことだ。あいつもさすがに使用人根性というかが身につきすぎだな」
「・・・へぇ」
「もうちょっとそっちから話題を盛り上げていこうという姿勢を見せてくれないか? なんとなく話していて不毛な気がする」
「でもそういう話題を出されても・・・あんたはどうせ濱田さんから貰えるでしょ?」
「貰わんよ」
「そういうわけにはいかないでしょ」
「だからって受け取るわけにもいかない」
「なんでよ?」
 完全に失言だったようだ。こう尋ねられてどう答えろというのだろうか。
「チョコは嫌いだ」
 そういってみると、顔をじっと見つめられた。そうだった。こいつにこの程度のうそは絶対に通用しないんだった。なんで通用しないのかはよくわからないが。
「・・・そう。知らなかった」
 山根女史は小さくつぶやいた。驚いたのはこっちだ。この反応はどういうことなのだろうか。このうそがこいつにわからないはずはないのに。
 会話が途切れ、お互い黙って歩く。非常に気まずい。だからといってこちらから切り出すとまた泥沼な結果を導き出しそうだ。
「ごめんね」
「ん?」
「チョコ、嫌いだったんだ。知らなかった」
「・・・」
「小学校のころ、あげちゃってたよね」
「あ、いやそれは別に。えと、甘すぎるのがだめってだけで」
「・・・砂糖をむちゃくちゃ入れていたから」
「あ、そ、そうだった?」
 嘘はつくものじゃないな。というか、こいつは気づいていて俺を遠まわしに責めているのだろうか。そうなると厄介というか、たちが悪い。
「・・・幼稚園のころは好きだったよね、チョコ」
「よく覚えているな、お前」
「私を甘く見ないで頂戴」
「チョコだけに、か?」
 山根女史は一瞬きょとんとして、それから弱く微笑んだ。その表情は新鮮であったけれど、いつものこいつとは違う。なんとなく見ていていやな感じがした。
「ごめんね。私のせい? チョコ嫌いになったの」
 ある意味では全くそのとおりだが、実際はチョコが嫌いと言うことはない。どうしたってこれは先ほどのがうそだったと謝るべきな気がする。
 そう思っていてもやはり抵抗がある。論点をすりかえるか。
「今日はやたら腰が低いな。いつものお前らしくもない」
「悪い?」
 ちょっと語気がきつくなった。それでほっとする俺もどうかしているが。
「悪いとはいわんが、違和感があるな」
「そうかもね。じゃあとりあえず、あんたの分のチョコは要らないってことでいい?」
「なんだ、今年もクラス中にやるのか?」
「彼女いない男子にはね。親からお金もらえるし、別にあげて損はないじゃない?」
「そうか・・・」
 で、俺はもらえないということか。さすがに複雑な気持ちだ。まあ身から出た錆なので文句も言えないが。
「・・・もらえない奴への救済措置か。優しいな」
「私はいつだって天使の様に優しいわよ?」
「俺には厳しいだろ」
「天使と悪魔は紙一重なのよ」
 本気何だか冗談何だかさっぱりわからない。顔を見てみると笑っている。普通ならこれは冗談ということなのだろうが、その悪魔のような微笑をみると正しい気がしてくる。天使っていう部分が間違いなのかもしれないが、口に出すことは出来ない。

「・・・んで、結局駄目なのか」
「駄目って何だよ、駄目って。失礼だな」
「ホント、お前らってわからんなぁ・・・」
 柴田はため息をついた。
 珍しく某教師が学校を休んだため、時間が空いた。そのため化学部室には俺と柴田だけしかいない。山根女史と森井女史は選択科目が違うため普通に授業を受けている。
「前にも聞いたっけ? まあいい。結局、お前は山根さん好きなんだよな?」
「知るか」
「おいおい、頼むからもうちょい素直に答えてくれよ」
 柴田が再びため息をつく。こいつに呆れられているのだろうか、俺は。もうだめだな。
「よし、話題を少しずらすぞ。濱田はどうするんだ?」
「何で濱田が出るんだ? どうってどういう意味だよ」
「・・・ちょっと待ってくれ。さすがに会話がずれているというかお前の鈍感さにはびっくりだ。マジでいっているのか?」
 何が言いたいのだろうか。俺ほど敏感な奴を捕まえてよくもまあ鈍感などといってくるものだ。
「どこから説明すればいいんだ、お前には・・・とりあえず、濱田は誰がどこからどう見てもお前に惚れてる。自覚はあるか?」
「・・・ちょっとまて、俺はそうは思わない。ゆえにお前の『誰がどこからどう見ても』の部分は誤りだ。その時点で間違っている以上、全体としてもとても信用できない」
「じゃあ訂正しよう。お前以外の誰がどこをどこからどう見ても濱田はお前に惚れている。これでいいか?」
「・・・なぜ俺だけ例外なんだ?」
「だってお前、気づいていないんだろ?」
「・・・納得はいかないが続けろ」
「納得してもらえなければ続けられないんだが」
「だってお前・・・じゃあ杉山はどうなるんだよ? あいつ、明らかに濱田に惚れてるだろ?」
「そんなこと濱田だって気づいてるだろ」
 予想以上に複雑な人間関係が俺の周りで展開されていたらしい。小説じゃあるまいし、ここまで変な状況になるものだろうか。
「待て待て待て、お前、それは絶対に確実か?」
「もちろんだ。なんなら小指ぐらい賭けたっていいぞ? ・・・顔が赤いな」
 柴田がじろじろと顔を見てきたので思わず隠す。
「ひょっとして照れているとかそんなグロいこと言い出さないだろうな?」
「・・・悪いか?」
「このあいだの、岡部さんだっけ? あの人、お前に惚れてたってうわさだったぞ? あれはガセか?」
「どこからそんな噂が流れうるんだよ?」
「濱田から」
「・・・本気でわけがわからなくなってきた」
「深く考えずに状況と事実を淡々と受け止めろ。で、濱田、チョコくれるだろうけど、断るんだよな?」
「・・・そういやなんか言われてみるとそれを匂わせるようなことをいっていた気もしないでもないな・・・」
「たぶん、お前以外の人間が聞いたら匂わせるどころか直接いっているように聞こえるんだぞ、それは」
「それはないよ、さすがに」
「それがあるからお前は面倒なんだ」
「まあ受け取らないといっておいたから大丈夫だろう」
「言って聞くような相手か?」
 聞かない気がする。客観的に見て聞いてくれるようには思えない。
「じゃあどうすりゃいいんだ?」
「ちゃんと断れ。はぐらかさないで、な」
「はぐらかした覚えなどない」
「無自覚なのか。余計たちが悪い」
 柴田はため息をつく。こいつ、マジでむかつくな。かといって原因はどうも俺にあるらしいので如何ともし難い。濡れ衣だとしか思えないが。
「はっきりさせたほうがいいよ。お前のためにも、濱田のためにも、山根さんのためにも、な。なに、俺はお前の親友だ」
 そういって肩を叩かれた。どうしろっていうんだろうか。


<続く>
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