二時間で書けましたよ。
自分としては奇跡のような速さです。
そして推敲を一切していません。だめじゃん。
ほとんど会話文なので、勢いだけで読んでください。
*
「明日はクリスマスイヴですね!」
濱田がしつこいぐらいVの発音を強調して言った。この寒い中に元気な奴だ。
「お前、キリスト教徒だったのか?」
「別にキリスト教徒でなくてもクリスマスを祝っていいはずです」
「で、なんかやろうってこと?」
杉山がややあきれたような声を出す。こいつも今では完全に濱田慣れしており、水の流れるが如く流される日々を送っている。慣れているというより諦めているのだろう。
「さっすが杉山くん、話が早い。さて、じゃあクリスマスといえばなに?」
「ひょっとして僕に聞いているの?」
「当たり前でしょうが。早く答えなさい」
「・・・七面鳥?」
「先輩はどう思いますか?」
「あの、僕の意見は無視なの?」
「あれ? 杉山くん、いたんだ」
「・・・もういいよ」
杉山は諦めて引っ込む。泣ける男だ。こういう奴にこそサンタなりなんなり訪れて、日ごろの苦労をねぎらってあげて欲しい。
「パーティでも開こうっていうのか?」
「さすが先輩、話が早いですね。さて、ということで明日はプレゼント交換をしましょう!」
「どういうことなんだ、それって」
「私たちや山根さんはさすがにもうサンタが来てくれる年齢を超えています。よって、みんながお互いのサンタクロースになってあげよう、ということです」
「柴田さんと森井さんは?」
「なんで恋人同士で仲良くやっている人たちをわざわざ私たちのパーティに招くの? 冗談は寝てから言え」
「・・・すいません」
俺は杉山の肩を叩き、ねぎらう。哀れすぎる。すでに言い返そうなんていう発想すら起きていないのだ。骨の髄まで奴隷と化しているようではないか。
「ケーキの用意は私がします。杉山くんは七面鳥ね。自分でいったんだから責任を持って用意しなさい」
「おいおい、そこまでして杉山をいじめるな。なぜこいつにそれほどまでに辛く当たる? あれか? 思春期の始まった小学生男子あたりにありがちな異性に対する好意の裏返しか?」
「あら、私は素直に好意を表しますよ? 誰かさんが受け取ってくれていないだけです」
なんだか泥沼になりそうな気配が漂い始めたので、俺は黙る。場の空気が重くなったのを感じ、杉山が濱田に尋ねた。
「山根さんにはもう言ったの?」
「昨日言ったわ」
「何で僕たちよりも先に?」
「山根さんの同意があれば、先輩や杉山くんが逆らっても無駄でしょ?」
濱田は当然のことのように言った。ああ、なんて弱いんだ、俺たちは。
翌日、つまりはクリスマスイヴ。
俺は一応買ってきた品物を手に、部室の前に立っていた。入るといきなりクラッカーが鳴り出したりするんだろうか。嫌だ。
「荒川さん? なんでこんなところに突っ立ってんですか? 早く入りましょうよ」
振り向くと杉山が立っていた。ということは、電気の点いた部室に中にいる人物は濱田。山根女史は部室の鍵を持っていないから、必然的にそうなる。となると無警戒に入るのは危険か?
「杉山、先に入ってくれないか?」
「僕だって嫌ですよ」
「そうか・・・」
ドア越しに気配をうかがうが、何もわからない。ここは意を決していくべきなのか?
ドアを開けると、驚くべきことに何も起こらなかった。時間差で何かが来るのかと思ったが、その気配はない。部屋の中には予想通り濱田がいて、ケーキのろうそくに火をともしていた。
「あ、先輩たち、遅いですよ」
「そりゃ悪かったな。山根女史は?」
「山根先輩はもう来ていますよ。飲み物買いに行きました」
「そうか」
作業を終えた濱田が、こちらに振り向いた。
「先輩、プレゼント忘れていませんよね?」
「ほら」
俺は持ってきた袋を掲げる。濱田は満足げにうなずき、いかにもおまけといった風に、杉山に向けて
「杉山くんは?」
とたずねた。杉山も俺に倣って袋を掲げ、濱田の確認を得る。
「山根、いつ買いに出たんだ? もう火をつけちゃっていいのか?」
「あ、大丈夫です。結構前でしたから、たぶんもうそろそろ」
そういったと同時に山根女史が入ってきた。たぶん、外から中の様子を伺って登場するタイミングを狙っていたのだろう。さもなければこんな絶妙なタイミングで入ってこられるはずがない。
「お酒買ってきたわよ」
「まて、さらっとなにをいっているんだお前は?」
「だから、アルコールを」
「校内で酒なんて飲んだら下手すりゃ停学だぞ?」
「えー、大丈夫ですよ。たぶん」
「たぶんじゃだめだろうが! とにかく、わが部で酒を飲むのはだめだ。飲みたいなら俺を巻き込むな。家で勝手に飲め」
「しょうがないわね、まったく。まあそもそも買ってきていないけど」
山根女史はそういってコンビニの袋から清涼飲料水を取り出す。からかわれていたらしい。
「えー、なんで買ってこなかったんですかー?」
濱田は本気だったようだ。アホとしか言いようがない。
「変えないに決まっているでしょうが。うちの学校の周りのコンビニで、高校生らしき女の子が酒を買うなんて不可能よ。相手から確認を求められて終わりね」
「まあ、しょうがないです。じゃあとりあえずはじめましょうか」
濱田はまだ文句がありそうだったが、そういってケーキを机の真ん中に置く。普通のケーキだ。サンタが上に乗っている以外、特にクリスマスらしいところはない。
「俺はブッシュ・ド・ノエルを期待していたんだが」
「杉山くん、電気消して」
部室が暗くなり、ろうそくの炎だけが明かりとなる。
「なあ、これって誕生日じゃないのか?」
「へ?」
「そういえば、クリスマスでもろうそくを吹き消すのってやるのかしらね」
「・・・杉山くん、電気をつけなさい。早く!」
「はいはい」
杉山は再び電気をつける。部屋は明るくなり、ろうそくの揺らぎも気にならない。
「で、なにやるんですか?」
「さあ?」
「あんまり人とクリスマスを祝ったことがないわね、私は。ってことでわからないわ」
「俺もそうだな」
「言われてみれば私もです」
「僕はありますよ」
杉山はこの一言で全員の注目を浴びた。
「あ、そうは言っても中学のころサッカー部のやつらとやっただけなんですけどね」
「で、なにしたの?」
「とりあえずクリスマスっぽい歌を歌った後、ケーキを食ってプレゼント交換して終わりでしたね」
「ろうそくは?」
「そもそもろうそくはついていませんでしたね、そのケーキには」
濱田はそれを聞いてろうそくを全て吹き消し、燃え差し入れに投げ込んだ。説明が要るかどうかはしらないが、燃え差し入れとは使用したマッチの残った軸の部分などをいれる、水の入った容器のことだ。
「じゃあ歌いましょうか!」
「なにを?」
「『戦場のメリークリスマス』とかか?」
「あえて『ドナドナ』とかどうでしょう?」
「なんでもっと普通の選択肢を挙げられないんですか? あ、そうだ、山根さん楽器持っていますか?」
「持っているわけないでしょうが。もしあっても、演奏はしないわよ」
「・・・だろうな」
「荒川、何か文句でもあるの?」
「あるわけないだろうが」
「もういいです。歌はパスしてケーキを食べましょう!」
そういって濱田はあわててケーキを配り始めた。おそらく、予想をはるかに超える盛り上がらなさに焦っているのだろう。これぐらいのテンションは予想できなかったのだろうか。大体、柴田たちというクリスマスを恋人のイベントとして認識している奴らが、俺らの頭の中には薄く残っているのだ。その深層心理によって、恋人のいない俺たちの惨めさはいっそう引き立つと言うもの。なぜそこのところをわかっていないのだろうか。
とりあえず全員にケーキが渡された。全員がぼそぼそと「いただきます」とつぶやき、ケーキを口にする。うまくもまずくもない。コメントできない。空気は加速度的に重くなってきた。濱田の提案したパーティなんてものに来たのがそもそもの間違いだった。
「じゃ、じゃあプレゼント交換にしますか?」
濱田は無理矢理大きな声を上げた。俺たち三人は小さくうなずく。活気のかけらも感じられない。部室の暖房は学校側の管理なので、こんな夜遅くには点いてないのだ。寒い、暗いとろくな状況ではない。
「じゃあみなさん、プレゼントを机においてください。くじで選ぶ順番を決めます!」
いつ作ったのか、濱田はいつの間にか紙で作ったくじを何本か持っていた。俺はその中のひとつを引く。「吉」だ。なぜだ。
「これはおみくじなのか?」
「ええ、大吉が一番最初です」
「私、中吉ね」
「僕は・・・末吉です」
「じゃ、私が大吉ですね! えーっと・・・じゃ、これで」
濱田はそういって自信を持って俺の持ってきたプレゼントを選んだ。
「あ、言っておきますけど全員が選ぶまで空けちゃだめですよ」
「中吉と吉ってどっちが上だ?」
「たしか・・・中吉じゃないですかね」
「じゃあ私ね」
山根女史はそういってしばらく眺めた後、杉山の持ってきたものを選ぶ。
よって俺は自分のか山根女史のしか残されていない。ということで山根女史のを選ぶ。
「さて、じゃあレッツオープン!」
がさごそと全員が一斉に包みを開け始めた。もともと山根女史の袋はそう重くなかったので、期待はしていない。
中からは、天津甘栗が出てきた。理解に苦しむ。
「なぜ甘栗なんだ?」
「『クリ』スマスだからに決まっているでしょうが」
「あの・・・これは一体どういうことでしょうか?」
濱田は俺の持ってきた袋からプレゼントを取り出した。
「鱒寿司だ」
「ひょっとしてクリス『マス』だからなんですか?」
「無論だ」
「何でそんなにネタに走るんですか?」
「それは『寿司ネタ』とかけているのか? あまり面白くないぞ」
濱田は手元にある鱒寿司を見て呆然としている。予想していなかったのだろう。予想されていても困るが。
「あ、ネックレス。ありがとうね、杉山くん」
「あ、いえいえ」
杉山はネックレスを買っていたらしい。なんてまめな男だ。というか俺が引いたらどうするつもりだったのだろうか。
杉山は濱田のプレゼントを空けた。そこには手袋が入っている。
「あ、ありがとう濱田さん。大事に使います」
「っていうか、先輩方はもうちょっとまともなものを買ってくださいよ! なんで両方ともくだらない洒落の食べ物なんですか?」
「失礼な。鱒寿司だぞ? おいしいじゃないか」
「会話になっていません!」
「栗、嫌いだった? 杉山くん」
「あ、いえ、別に。好物です」
「そう、よかった」
「それで納得していいの? 杉山! もっと男らしくびしっと『なんだこれは! 私を杉山と知って出したのか! 女将を呼べ!』ぐらいいいなさい!」
「それはないだろ、さすがに。というか女子高生の台詞として何かおかしいから」
「物の喩えです! あー、もういいです。最後にパーティゲームをしたいと思います!」
「勢いで物を言うな。普通、プレゼント交換が最後でおしまいだろ」
「先輩に普通とか言われたくありません! 王様ゲームです! 大吉の私が王様です!」
「は、濱田さん落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかー! こんなクリスマスイヴは嫌だー!」
「じゃ、王様ゲームしましょうか」
山根女史があっさりといった。暴れていた濱田が動きを止める。
「ほ、本当ですか?」
「もちろんよ。確かにこんなクリスマスイヴは情けないことこの上ないし、なんか強烈な思い出が欲しいものね」
「俺はプレゼントとして甘栗が入っていただけで十分強烈な思い出なんだが」
「こっちだって鱒寿司ですよ? 十年後に後悔しますよ、こんなの。じゃあ王様ゲーム! 吉の人が大吉の人を褒める!」
「なあ、王様ゲームするならちゃんとくじを引きなおすべきじゃないか?」
「そうね。じゃあもう一回引きなおしましょうか」
山根女史がくじを回収し、引きなおさせる。濱田は明らかにショックを受けていたが、まあしょうがあるまい。自分が大吉だから王様ゲームっていうのは馬がよすぎる。やはりやり直しは必要だろう。
俺の今回のくじは末吉だった。
「あ、私大吉だ」
山根女史がつぶやいた。仕組んだ、という単語が頭をよぎったが、声には出さない。
「じゃーどうしましょうかね」
山根女史はそういって全員の顔を見回す。顔色で誰がどれをひいたかわかるのかもしれない。もしそうならゲーム性のかけらもないな。
「末吉が小吉を・・・小吉の頭をなでる」
「僕が小吉です」
「俺が末吉だ」
「・・・ビジュアル的に辛いですね」
濱田がつぶやいた。
「なあ、この記憶も大分後悔を引き起こすと思うが、どうだろうか?」
「女王様の命令を聞きなさい。ほら、さっさとやる」
「・・・じゃあ覚悟しろ、杉山」
「な、なんでそんなに力が入っているんですか?」
「気にするな」
「い、痛くしないでくださいね」
「なんで頭をなでるだけでそんな会話になるのよ、あんたらは」
山根女史に言われ、とりあえず杉山の頭をなでてやる。気持ち悪くなってきた。生クリームが悪かったのだろうか。
「もういいわ。見てて気持ち悪い」
なら、させないでくれ。
「どうするの? もう一度やる?」
「もちろんです!」
濱田が元気よく答え、さっさとくじを混ぜる。精神的ダメージを負った俺と杉山はなんとなく気だるげにくじを引く。大吉だった。
改めて三人を見回す。三人のうちの二人に命令が出来る。これはほとんど特定できているといっていいのではないだろうか。組み合わせが三通りしかないのだ。はっきりいって三分の一の確率なら組み合わせを意識した命令も下せる。要するに濱田と杉山をくっつけておきたいわけだ。だが、もし外れた場合どうなるのか。例えばこういう命令の定番に告白があるわけだが、仮に杉山と山根で当たったら?
「大吉、誰なんですか?」
濱田の声で、俺は現実に引き戻された。
「ああ、俺だ」
「命令は?」
山根女史に促された。
「・・・今日は、これで解散。帰って寝ろ」
「なんですかそれ? 無しですよ、そんなの」
「王様命令だ。従えって」
「片付けはどうします?」
「大して散らかってないし、大丈夫だよ。残ったケーキは・・・濱田、持ち帰れ」
「はーい。つまんないのー」
濱田はぶつくさ言いながらケーキを箱に戻し始める。
「来年こそは絶対に恋人と過ごしましょうね、荒川先輩」
「別に・・・来年は受験だし、俺」
「でも私は、来年は高二です。よってまだ受験には余裕があります。クリスマスぐらい、恋人と過ごしていいじゃないですか」
「悪いとはいっとらんぞ」
「それに付き合ってくれませんか?」
「恋人と過ごすんだろう? 俺が邪魔するわけには行くまい」
濱田はそれを聞いてわざとくさい大きなため息をついた。ま、こんなところだろう。
こうして、高二のクリスマスが終わった。思い出に残るかどうかはしらないが、別に悪い思い出でもないだろうと思う。
しかし相変わらず濱田の暴走がエスカレートしてる。杉山は一発「それが私に対する口の聞き方か 女将を呼べ!」とか言ったらどうでしょう。