記事タイトル→2006-11-09 Thu  つまり、祭り(2)記事タイトル←

これで書き溜めていたものはなくなった。
次はいつになることやら。


一話目
過去の作品などはこちらから。*

「・・・で、智美もしっかりといるわけね」
 私はため息をついて白衣を着ている智美をにらんだが、智美は少しも悪びれる様子もない。
「いいじゃない。どうせ暇なんだし、お手伝いも楽しいじゃない」
 そういって「ねー」とでもいう風に柴田くんと目を合わせる。ああくそ。腹立ってきた。
「はい、山根先輩の分です」
 濱田さんが白衣を引っ張り出してきた。ちょっと埃っぽいけど、耐えられないほどでもない。袖を通してみるとなかなか悪くない気もしてきた。
「似合うじゃん。やり手の女教師って感じ?」
「柴田くんは黙ってなさい」
「似合ってますよ。僕らより化学部っぽいです」
「ありがと、杉山くん」
「ちょっとまて、その態度の違いはなんだ? 杉山に甘くないか? むしろ俺に辛くないか?」
「大丈夫、柴田くんには私がいるわ」
 智美はそういって柴田くんに抱きつく。うざい。心からうざい。濱田さんと杉山くんはもう慣れたのか、たいして気にしていないようだ。こういった見て見ぬ振りが、世界に悪をのさばらせるのね。
「で、これ着て何しろっていうの?」
「・・・なんですかね? 柴田さん」
「そりゃお前・・・」
 柴田くんは杉山くんから話を振られて言葉に詰まる。なさけない先輩だこと。
 数十秒の空白があった後、柴田くんは何か思いついたようだ。
「とりあえず、客寄せかな。校門に立って客寄せしてくれれば助かる」
「じゃあ智美は?」
「私? 私は・・・ここにいるのが仕事かな。ねー、柴田くん」
 私は智美の首根っこを掴んで実験室から引きずり出した。


 校門にいくと、生徒たちが最後の仕上げに慌てふためいていた。実に計画性の無い生徒が集まった学校ね、ここは。もはやあきれるね。
 時計を見ると、あと十分ほどで入場開始。といっても最初は大体この学校に生徒がいる保護者が入ってくるだけだから、あんまり宣伝しなくても一通り回ってくれる。もう冬が大分近づいているから、立っているだけじゃ寒くてしょうがない。さっさと帰っちゃおうかしら。
「そういえば、吹奏楽のビラ持ってくればよかったね」
 智美がつぶやいた。いわれてみるとその通り。取りに戻ろうかしら。でも白衣で吹奏楽部の宣伝してたらどう思われるかしらね。なかなか新しいけど。
「じゃあ取ってこようか?」
「あ、私が行くから大丈夫。まだあっちに顔出してないし」
 まったくだ。なんで化学部に真っ先に行って自分の所属する部に顔出さないんだか。
 と思っているうちにもういってしまった。ここで当然起き上がる不安は帰ってこないんじゃないかっていうこと。智美なら化学部のほうに戻っている可能性も否定できないのだ。一人で行かせたのは失敗だったなぁ。
 とそんなことを考えている間に人が来始めた。まだ五分ほどあるが、来た人がいたってことでしょうね。まさか追い返すわけにはいかないでしょうし、当然か。
 大体がおばさんで、保護者らしい雰囲気をかもし出している。生徒の兄弟と思われる中学生っぽい子もいるから、ちゃんと宣伝しないとね。うちの高校に入ったら吹奏楽に入ってくれるかもしれないわけだし。あ、今は化学部の宣伝か。
 そう思ったところ、なにを宣伝していいのか知らないことに気がついた。三時から実験とかポスターに書いてあったけど、どんな実験かは知らない。それ以外は何も知らない。宣伝しようがないわね。
「やっぱ山根先輩働いてませんね。だめですよ、ちゃんと荒川先輩の分まで働いてください」
 いつの間に来ていたのか濱田さんが白衣を着て立っていた。
「しょうがないでしょ。なにをやっているのかも知らないんだから」
「それもそうですね。えぇっと、三時からの実験の宣伝にはまだ早いですよね」
「そうでしょうね」
「でも大丈夫です。取って置きの秘策を用意しましたから!」
 そういって白衣のボタンをはずし始めた。嫌な予感がする。今のうち逃げておいたほうが身のためね。周りに知り合いだと誤解されたらいい迷惑。
 そう思って後ずさりを始めたが、すでに遅かった。ボタンを全て外し終えた濱田さんは不必要なまでに白衣の前を広げ、あたりの注目を浴び始めた。
 大げさな反応が気になったので、別な方向に向かうふりをして濱田さんの前の部分が見える位置まで行ってみた。行かなきゃよかった。なぜ水着? これ、夏に着ていた奴ね。つまりはビキニ。あほだ。
「寒っ」
 濱田さんはいきなりそう叫んで前を閉じ、がたがたと震えだした。どうしようもないな、この人。
「一応聞いておくけど、どうして水着なの?」
「そりゃ決まっています。私の魅力である種の欲望をもてあました少年たちが引っかかると思って」
「どっちかっていうと女子高生相手に異常性欲を燃やす中年が引っかかるんじゃない?」
「うちは私立ですよ? そういう人は守衛が止めているはずです」
「うちの守衛ならさっき廊下で見たわよ。店はまだ開いていないのに、生徒に頼んで焼きそば作ってもらってた」
「・・・」
 濱田さんは何も答えず、辺りをきょろきょろと見回した。
「大丈夫ですよ。男は高校生以下しかいません」
「高校生だから安全ってことはないでしょう。もうちょっと冷静に自分の身を眺めなさい? それこそある種の欲望をもてあました挙句に襲ってくるかもよ?」
「先輩、意外とかたいんですね」
 会話が通じていない。若者の乱れた性とかいうタイトルで週刊誌にでも売ろうかしらっていう欲求が起こる。
「なにやってんだ濱田・・・お前馬鹿だろ」
 柴田くんが現れていきなり言い出した。後輩に向かって「馬鹿」なんて失礼な人ね。もっと言ってやれ。
「あれ? 先輩がなんでここに?」
「杉山に『濱田さんが暴走しています。僕には止められません』といわれてな。確かにこれは酷い。杉山には荷が重いな。ほら、帰るぞ」
そういって濱田さんに向かって手を伸ばしたが、途中で止める。
「どうしたの?」
「いや・・・白衣の首のところを掴もうと思ったんだが、絵的になんか・・・まずいような気がしてしまって・・・人目もあるし」
 確かに、高校生男子が白衣の下に水着を着た後輩の襟をつかんで連れて行くのはかなりシュールな光景だ。そもそも滅多にお目にかかれるものでもないだろうが。
「大丈夫かな・・・なんか俺のほうが怒られたりしないよね? セクハラとかいって」
「ふ、私はいつ悲鳴を上げたっていいんですよ?」
 濱田さんは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。私は一発後頭部を叩く。お、うまく決まった感触。こうもうまく行くと気持ちいいわね。
「いった・・・ちょっと先輩、さすがに痛いですよ!」
「だったらおとなしく着替えてきなさい!」
「・・・わかりましたよ。今日のところは引き下がります」
 渋々といった感じで言うが、「今日のところ」ってのはなんだ? 明日はやるのか?
 そんなツッコミを入れたものか、はてまた入れたらやぶへびになるんじゃないかと迷っていると、濱田さんは
「ハックション!」
 とわざとっぽいくしゃみをした。相当意識的なものだろう。
「じゃあ帰りますか。早くしてください、柴田先輩。風邪引いたら先輩のせいですよ?」
「なんで俺なんだ?」
「つべこべ言わないで行きますよ」
「あ、ちょっと待って柴田くん」
 歩き出さんとした二人を止めると、濱田さんはなんだか嫌そうな顔を浮かべた。そこまでか?
「なに?」
「智美、部室なの?」
「いや、さっきメールが着たんだけど、なんでもOBが来ていて抜けられないってさ」
「あ、そうなの」
「じゃ、俺たちはこれで。後でまたこっち来てよ」
 二人が去っていく。私はそれをにこやかに見送っていたが、柴田くんの姿見えなくなったのを確認した後、近くに生えていた樹を思いっきり蹴飛ばした。なんで私にメールしないで柴田くんにしてんだよ、あいつは。OB来ているなら私に教えなさいっつーの。
 少しストレスが減って辺りを見回すと、人々はいっせいに目をそらした。今まで全部見られていたらしい。今まで全部となると、白衣の下に水着を着てわけのわからんことほざいたあと連れ戻しに来た先輩を一括して突然去っていった女を見送ってしばらくした後に樹木にストレスをぶちまけたところってことね。これはまずい。私のイメージが崩れるにもほどがある。それを通り越して危ない人と思われかねない。
 とりあえず私は白衣を脱いだ。タイミング悪く秋風が吹き、冷える。寒いわねほんと。水着でなくても風邪引くわ。あほは引かないかもしれないけど、私は普通の人間だ。もう帰ろうかしら。
「・・・あの、化学部の方ですか?」
 後ろから声がした。私は今、白衣を着ていない。そもそも化学部の部員ではない。よって振り向く必要は・・・ないわけないわね。
 振り向くと、どこか見たことのあるような制服を着た中学生の少女が一人で立っていた。っていうか、これ私の中学のころの制服と同じじゃない!
「なんでしょうか?」
「あ、あの・・・」
 少女(といっても、制服のバッチから三年生だってわかるから、二つしか変わらないけど)は小さくなにかもごもごと言ったようだ。聞き取れない。
「はい?」
「あの・・・その・・・そちらの部員に荒川という方はいらっしゃいますか?」
「・・・は?」


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