なんか他に書きたいものが溜まっていくフラストレーション。
登場人物紹介一話目:「ホワイト・デイズ」 二話目:「馬鹿どもの日」 三話目:「その想いも梅雨知らず」四話目:七の夕暮れ今シリーズ:
夏の終わりの始まりに(1)夏の終わりの始まりに(2)夏の終わりの始まりに(3)*
よく考えると、山根女史と二人でいるのは久しぶりな気がする。毎日のように顔を合わせているとはいえ、柴田と森井がいないことはまずない。そういえばあいつら二人はどこでなにをやっているんだろうか? まさかこのプールにいるというベタな展開は無いだろうが。
そんなことを考えながら歩いていると、山根女史が足を止めた。階段の前で足を止めるとは何事だろうか。
「どうした? さっさと上れよ」
「荒川、あんた先に上りなさい」
まじめな顔をしてそんなことを言い出した。
「それは何の意味があってのことだ?」
「いろいろよ」
「答えになってないだろ」
こんな話をしているうちに、二三人俺らを抜いていく。なんだかよくわからんが早く従ったほうがよさそうだ。
「まあいい。今はおとなしく従ってやろう」
「さっさと行きなさい、さっさと」
階段はずいぶんと長い。つまりはこのウォータースライダーの規模が大きいと言うことだ。うむ、血が滾る。
「足元、滑りやすいから気をつけなさいよね」
「わかってるよ」
階段はずいぶんと濡れており、確かに滑りやすくなっていると言えそうだ。それぐらい自分でもわかっているつもりだが、以前、確か梅雨ごろに山根女史の前で大きく転んだ覚えがあるからしょうがないだろう。
以前といえば・・・この状況は、前にもあったような気がする。それもずいぶん前に。あれはいつごろだっただろうか。
「なあ、山根」
「なに?」
「なんかこの状況、やたらとデジャヴなんだが、お前は覚えないか?」
「この状況ってどういう状況を指しているのよ? ウォータースライダーに向かっている状況?」
「いや、そうじゃなくて、もっと一般的な」
「言っている意味がわからないわね。頭でも冷やしたらどう?」
後ろにいる山根女史がため息をついた。くそ、腹の立つ言い方をしおって。
しかしその台詞もどことなく覚えがある。記憶が錯乱しているのだろうか。
「って、うわ」
考えていたら足元がおろそかになったらしく、滑った。危うく本当に階段を転がり落ちるところだったが、手すりにつかまって事なきを得る。それだけではなく、背中に手の感触があった。
「あんたってほんと・・・馬鹿ね」
山根女史があきれた声を出す。反論できない。
「すまんな、お手を煩わせてしまって」
ここでようやくこのデジャヴの原因を思い出した。
足を折った一時期、俺が階段を上るときに山根女史は欠かさず後ろにいてくれた。が、それを認めようとはしなかった。
「・・・すまんな」
「二度も言う必要はないわ」
「いや・・・もっと前のことも含めて、ありがとう」
「・・・不気味ね。あんたは普段通り偉そうにしていればいいの」
「そんなに偉そうか? 俺って」
「それも個性よ。悪いことじゃないわ」
そういわれてもあまりうれしいものではない。もうちょっと謙虚に生きたほうがいいのだろうか。
そうこうしているうちに階段を上り終えた。なかなかに高い。人々を見下ろすと、気分がいい。やはり俺は偉そうだと言うことだろうか。
「次の方どうぞ」
係の人に入場したときに買ったチケットを渡し、前に出る。水の勢いが激しいところをみると、かなり速度が出るのだろうか。まあ安全基準をクリアしているのだろうから大丈夫ではあるだろうが。
「じゃ、お先に」
山根女史に一応断りを入れて、位置についた。係員の合図とともに、滑り出す。