記事タイトル→2006-05-10 Wed  雨の上がる日記事タイトル←

そうだ、ランキングで高い順位に居るうちに小説をアップしてみよう。
今回の短編を書いたのはおそらく11月〜12月なので、ちょいと古いです。
でも特に手直しする場所はなかったのでそのままアップさせてもらいます。
しかし手直しする場所がなかったってことは、上達してないってことかな・・・・・

ともあれ、お気に召しましたらこちらをクリックいただければ何よりです。
ランキングですよ。別にお金がとられるページに飛んだりはしませんよ。本当ですよ。

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 雨が窓に当たる音で、静寂に包まれるべき部屋はその意に反して騒々しい。ベッドに横になっていた少年は起き上がってカーテンを開けて外の様子を眺め、憎々しげに舌打ちした。その雨が世界のすべての悪を象徴しているかのような、実に感情のこもったものだった。

 少年は窓辺から離れてベッドに座り、置いてあった折りたたみ式の携帯を手に取った。少年はそれを何度か開けたり閉じたりしたあと、やはり不機嫌そうにベッドの上に放り投げ、再びベッドに横になって天井を眺め始めた。

 少年が二ヶ月付き合っていた少女と別れて、三日が経っていた。別れて、というが本当は振られてといったほうがいい。別れた原因は少年の浮気癖にあった。彼女がいながらもあちこちの女の子に色目を使い、それが彼女を怒らせた。何度も注意され、そのたびに誤るのだが懲りずに繰り返すため、三日前の木曜日にとうとう別れることになったのだった。

「友達でいようね」、彼女はそう言って少年の元を去った。学校もクラスも一緒なのだから、分かれたからといって険悪な関係にはなりたくないのだろう。少年から考えても、確かに同じクラスで険悪な状態をもつのは避けたかった。大体、少年からすれば別れたくなかったのだから。

 彼女は、少年には似つかわしくないほどおとなしい少女だった。クラスが一緒になっても最初のころはほとんど話すこともなく、少し席が近いだけで何の関係もなかった。少年が休み時間にクラスでゲームやスポーツの話題をしているとき、彼女はいつも何か本を読んでいた。そしていつもそれほど変化しない彼女の表情も、そのときばかりはいくらか変化していた。楽しそうな表情を浮かべたり、悲しそうな表情をしたり。

 付き合い始めて少し経ったころ、少年は彼女にいつもどんな本を読んでいるか尋ねたことがあった。そうすると彼女は少しうれしそうな顔をして、今読んでいる本の内容を話してくれた。そのころ、彼女がなんという本を読んでいたのかは憶えていないが、その表情は見ているだけで少年の心を和ませた。

 少年はなんだかんだ言って彼女と一緒にいる時間が好きだった。彼女はいつも少年の話をおかしそうに聞いてくれたし、たまに彼女が話すことを聞くと、日々のなんでもない出来事が実に興味深いものなのだと感心した。彼女の視点は少し変わっていて、それでいて物事を良く見ていたのだ。何より少年には、彼女の浮かべる数少ない笑顔を自分が独占できていると思えるのが快感だった。

 それなのになぜ女癖をやめなかったのか。これはそう簡単に浮気癖と言っていいものでもなかった。これもひとえに、彼女の表情の変化の乏しいことがあったのだ。少年は彼女を知りたかった。いつも表情を変えない彼女も、少年が何らかの形で他の女子を誘ったときだけ、ほんの少し眉をひそめ、まれに悲しげな表情さえも浮かべた。それを見る瞬間、少年は説明のできない満足感を得られるのだった。

 それを彼女に言ったことはなかった。さすがに言えば彼女も快く思わないだろうし、たとえ許されたところで、一度種明かしをしてしまったら少年の浮気に心を痛める、あの悲しげな顔を見ることができなくなるのだ。それでは何の意味もない。だからこそ、少年は彼女からたびたび注意を受けても懲りずに繰り返していた。
「ただの言い訳か」
 少年はそう独り言を漏らすと寝返りを打った。自身でもそう感じるように、少年は確かに軟派であった。それを正当化するためにこんな理由を考えて悦に入っているだけかもしれないと、自分でもわかってはいた。だから別れることになったとき、少年は何も言い返すことができなかったのだ。

 少年はだるそうに腕を伸ばし、先ほど投げ出した携帯電話を手に取った。携帯を開いてしばし画面を眺めた後受信フォルダを開き、過去のメールをひとつずつ見始めた。

 メールの差出人は、やはり彼女であることが多かった。友人とのメールもあったが、その内容は短く、その場限りの内容であることが多い。彼女からのメールは、ほぼ毎日決まって同じ時間に届いた。その内容は日記のようなものであり、その日何が起きたのか、彼女がどんな風に過ごしたのかが細かく書かれていた。言うならば交換日記のようなそのメールを読むとき、少年は彼女の仕種や数少ない微笑を思い出して快感を得ていた。それがすでに毎日の習慣となっていたことを、少年はメールが送られなくなって始めて気がついた。そして、メールが送られてこなくなったことで、少年は急速に彼女の笑顔を思い出せなくなっていた。

 少年は、最後に送られた彼女からのメールを開こうとして躊躇った。彼女と別れた今、少年はこのメールを見る資格を自分が持っていないように思われた。少年はしばしそのままの状態で居続けたが、振り切るように携帯を閉じて、今度は手元にゆっくりと置いた。自分の態度が未練がましいと思っても、やはりメールを削除することはできなかった。少年に残された彼女の存在はその程度にしかなく、物体として残る思い出はほとんどなかった。あるのはただ、メールや携帯の写真、それと少年の記憶だけだった。少年は自分の記憶が薄まり行くのを恐れ、せめて永続的に残りうるデータを取っておきたかった。そのデータの無機質さをわかっていながら、消すことはできなかった。見ることのかなわないメールでさえも、そばにあり続けて欲しかった。

 少年はそのまま横になっていたが、雨の音が妙に気になりだした。癇に障りだしたといってもいい。少年はなにやらぶつぶつと文句を言いながら立ち上がり、カーテンを開けて窓の外の景色を眺めた。傘を差した小学生らしい子供たちが、なにやら大きな声で話しながら歩いていた。

「雨っていいわよね。町が洗われる気がして」、彼女は以前、そう少年に言ったことがあった。「晴耕雨読、ってやつだ。本が読みたいだけだろ?」少年がからかうように言うと、彼女も笑って、そうかもね、と言った。ただそれだけの記憶が、どこか遠くに言ってしまったような気持ちになる。それでいて名残惜しいのか、少年は目で子供たちを追った。カラフルな傘がくるくると回り、その姿は確かに美しく感じられた。

 そのとき、ベッドの上に置いた彼の携帯が振動を始めた。その音に少年は驚くが、おそるおそる子供たちから眼をはずして自身の携帯を見る。携帯は振動で回転し、ベッドのシーツに少しずつしわがよっていく。

 少年は携帯を手に取り、すこし緊張しながらも開いた。発信元を眺め、少年は嫌そうにため息をついた。彼女からの電話ではなかった。

 それは少年が彼女に振られる直前に声をかけた女の子からだった。なれなれしく甘ったるい声を出す娘で、ピアスを両耳に二個ずつも着けていた。髪を茶色に染めており、それが目を引いたので何の気なしに声をかけたら相手も意外と乗り気で、すぐに携帯の番号を交換することになった。彼女とは正反対のタイプと言ってもよく、その馴れ馴れしさは新鮮でもあったが、少年にはあまり気持ちのいいものではなかった。話している途中に鼻についた化粧の臭いには、嫌悪感を覚えたほどだ。だが、その方が少年にとって都合がいいのだ。別れるときに楽でいい。そんな気持ちで、こちらの番号を教えたのだった。

 少年は手の内で振動を続ける携帯を少しの間眺めたあと、どこかあきらめたように通話ボタンを押した。意味もなく甲高い、甘ったるい声が聞こえ始め、少年は携帯を耳に当てた。
「もしもし?」
「出るの遅ーい。何してたのー?」
 少年は明らかに嫌そうに顔をゆがめ、それでも声には出さないようにして答えた。
「別に何も。雨だし、家でぼーっとしてただけ」
「今さぁ、友達とカラオケ行こうかって話してたんだけどぉ、来ない?」
「あー・・・めんどいからいいよ。他当たって」
「えー、ノリ悪いー」
 電話先の娘はまだなにやら文句を言っていたが相手をする気にもなれず、少年は携帯から耳を離して通話を切った。不快そうな表情は晴れず、携帯を手に持ったまま子供たちもいなくなった道路を窓から見つめていた。

 携帯が再び振動を始めた。一瞬驚いたがまた先ほどの娘がかけてきたかと思い、面倒そうに画面を見た瞬間、その顔が驚きに包まれた。

 彼女からだった。

 少年は一瞬わが目を疑った。彼女から掛かってくるはずがないのだ。少年を捨てておいて電話をかけてくるなど、彼女がそんな一貫性のない行動を取るはずがない。そう思ったからこそ、少年は警戒しながらも通話ボタンを押した。その指は若干震えているように思えたが、何の根拠もない。
「・・・もしもし?」
 少年は蚊の鳴くような声で言った。ほとんど声はかすれており、少年自身にも雨の音にかき消されてほとんど聞こえなかった。わずかな時間が空いて、声が聞こえる。
「あ、うん。わたし」
 その声は確かに彼女のものだった。少年はそのことに少なからず驚き、反面うれしく思う。
「どうしたの? 用事?」
「ううん、別に。ただ・・・ほら、雨が降っているから。それで」
 少年は、そのいつもの会話に、どうでもいい、取るに足らない内容の会話に、気持ちが和んだ。ほっとしていた。まるで失くし物が見つかったかのように。
「なんだそれ」
 少年は笑いながら続けて言った。
「どんな理由だよ、雨が降っているからって」
「ほら、前に話したでしょ。雨が降ると、町がきれいになるって」
「ああ、言っていたな。それが?」
 少年は軽口をたたきながらベッドに座る。できるだけ長く話ができるように、願いをこめて。
「だから、町がきれいになるとうれしいでしょ? でも、家にいたらそれをだれにも分かち合えないの。ね? だから」
 ああ、いつもの彼女だ。本を読みすぎているためか論理的思考と感情的思考を人並み以上に兼ね備え、時には少年よりもずっと大人で、時には少年に甘える子供のようで。その子供の一面は、少年しか知らない。現に今、彼女がその子供じみた喜びを分かち合えるのは少年しかいないと彼女は言ったようなものだ。少なくとも、少年にはそう思えるのが心からうれしかった。
「・・・ねえ、聞いてるの?」
「ああ、聞いているよ。確かに雨も悪くないもんだな。そういえば、さっき子供が道歩いていたんだけど、傘をくるくる廻しててさ―――」
 少年は少しの間(しかしその時間は今日一日でもっとも密度の高いものだったが、)彼女と話した後、軽い冗談を言って電話を切った。それがいつもの二人の電話での会話だったから。若干の名残惜しさはあるが、それはまた得られるものなのだと自分に言い聞かせる。ここで普段との違いを見せるのは、少年の気に入るところではなかった。

 少年は携帯を持ったまま窓から外の景色を見た。雨は少し弱くなり、水溜りに浮かぶ波紋も頻度が減ってきたのが目に入る。

 そして少年は、ふと思い出して閉じたばかりの携帯を開き、電話をかけた。呼び出し音が何回か鳴った後、少女の声が聞こえる。
 少年は言った。
「やっぱカラオケ行くわ。いまどこいる?」
「あー? 今更遅いよ。他の友達呼んじゃったから。まあまた今度ねー」
 少女の甲高い声はそっけなく響き、すぐに通話は切れた。少年は少しあっけに取られたように手に持った携帯を見つめ、苦笑してポケットの中に入れた。

 少年は窓の鍵を開けて網戸のついていないほうの窓を、力を入れて開けた。窓は勢いよくスライドし、端にぶつかって二十センチほど元に戻ってしまう。風が少し吹いてはいたが、雨はすでにやんだため部屋に入ってくることはない。わずかに陽の光が差し、水溜りから乱反射してきた光が少年の目に入り、少年は思わず目を閉じる。呼吸をするたびに体に染み渡る空気が、妙にすがすがしく感じられた。
短編小説 ・ COMMENT[6];Top

コメント→No.471 コメント←

非常に読みたいんだけど、さすがに携帯で読む気にはなれないな…。
携帯だと妙なところで改行されるし…
2006-05-11(Thu) ・ 投稿者[錬金術師1008] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.475 コメント←

>錬金術師1008さん
まだパソコン直ってないんですか。
君からパソコンを取ると健康的な生活が送れそうですけどねw
2006-05-12(Fri) ・ 投稿者[G-song] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.479 コメント←

こういう小説を読むと、とてもいい感じの精神状態になります。最近私は荒んだ生活をし、荒んだゲームをし、荒んだ漫画ばかり読んでいるのでこういうのはまさに心のオアシスです。
さてさて内容についてですが、上に書いたとおり良いとと思います。が、もし以前の様なツッコミをするなら、元彼女との電話が終わった後にある(しかしその時間は〜 の()は何とかして無くした方が・・・と思いました。
ところで、ランク上位の名に恥じないためにも、そしてなにより私のオアシスを増やすためにも1週間に一本くらいアップしない?
2006-05-14(Sun) ・ 投稿者[穂多流] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.480 コメント←

>穂多流さん
もう順位は落ちたのでだいじょうぶですw
まあ()はいろいろな文体をやってみようと思ったからつけてみただけなので、
正直よくなかったかもしれません。
2006-05-14(Sun) ・ 投稿者[G-song] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1035 仕事中だけど(^^)コメント←

いい仕事、いえ、いい小説だよー(^^)ほんと、あこがれちゃう!
まねして描写してみようかと思って、一行で挫折した!
しかし、彼女からの最後のメール、気になりますね!
でも、取っておきたいような気分もあったりして。
二ヶ月。微妙な期間だなぁ。
でも、二ヶ月でコレだけ人を寂しくさせるほど存在を残せるって、いいよね。
らんららが残せるのは、こんなコメくらい(TT)しくしく…
では、また来ます!
面白かったので、ポチ。
2006-09-25(Mon) ・ 投稿者[らんらら] ・ 編集 ・ Top

コメント→No.1040 コメント←

>らんららさん
僕のなんて真似しちゃいけませんよ。世の中にはもっと偉大な小説がたくさんあります。

二ヶ月でこれだけの関係になるのか。
それはちょっともう本当に冗談抜きで悲しいほどに経験がないのでわかりません(涙
2006-09-26(Tue) ・ 投稿者[G-song] ・ 編集 ・ Top

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