あらすじ:せっかくこの私、山根早織が幼馴染だというだけの縁でありがたいことに荒川に気前よく、私が入っているブラスバンド部の演奏会のチケットをくれてやろうと思ったのに、あの野郎、来ないとかいいやがった。 腹を立てたまま家に帰って、私は自分の部屋に入る。途中、母に声をかけられたが、無視。こういうときに親と話すとろくなことにはならないってのは、経験的に分かっている。
ふと携帯を見ると、荒川の家に行っている間に着信があったということが分かった。私は携帯を手にとってかけなおしてみる。
「・・・もしもし?」
「あ、早織? さっきなんで出なかったの?」
ブラスバンド部の友達、森井智美だった。彼女の担当はフルート。ちなみに私はトランペットの担当だ。二人とも、来年度のブラスバンドの主力ね。今回の演奏会でもそれなりに重要な場面が多い。
「ごめんごめん、ちょっと出かけていて。で、どうかしたの?」
「・・・早織、男の子にあげるチケットどうした?」
智美に言われて初めて思い出したけど、チケットが手元にない。ということは荒川の家に忘れてきてしまったらしいわね。んー・・・まあいいか。ノルマは果たした、って事で。
「もう知り合いに渡したわよ。あ、もしかして智美あげる人いないの? 奥手だもんね」
「・・・早織、柴田くんと同じクラスだったよね?」
う、今聞きたくない名前だ。なんで智美が柴田君のことを?・・・って、まさか?
「柴田くんにあげたの!?」
「・・・ううん、あげようと思ったんだけど、チャンスなくって・・・」
これは驚き。智美と柴田くんなんて、つながりがまったく見出せないわ。
「柴田くんに・・・ごめん、智美、柴田くんのこと好きだったの? 初耳なんだけど」
「す、好きだなんてそんな大げさな!」
智美は大声で否定する。今の表情までも私にはありありと想像できる。
「どこが大げさなのよ? 柴田くんの電話番号、連絡網にあったと思うけど教えてあげようか?」
「で、電話なんて!!」
「電話もかけられないの?」
私はさすがにあきれてしまう。智美が人見知りなのは知っているし、男の子に免疫がないのも分かっているけど、それぐらいの度胸が無いでどうするつもりなの。
「・・・だって私、柴田くんとろくに話したこともないんだよ?」
「じゃあなんで柴田くんを誘いたいのよ?」
「だって、ほら、夏休みに柴田くんが音楽室に来たの、覚えてない?」
夏休み? そんな昔のことを言われても、すぐには思い出せない。今年の夏は・・・例年通り暑かったわね。気象庁って毎年「記録的な猛暑」っていっているけど、本当なのかしら? そもそもどんな温度でも記録はするわよね。気象庁って言うのは天気のデータを管理するのが仕事なんだから。
「覚えてないの? 柴田くんに説教していたじゃない」
「・・・そうだった?」
今度は智美がため息をついた。それには私もちょっとむっとする。そんなの覚えてなくたって別にいいじゃない。どうせたいしたことないんだし。
「じゃあまあそういうことにして、それで?」
「私が一人で練習しているときに、わざわざ聞きに来てくれたんだよね、あのとき」
「・・・それならなんで私が柴田くんに説教するの?」
「早織はいきなりやってきて、柴田くんが私を襲いに来たって勘違いしたんじゃない。本当に覚えてないの?」
うん、覚えてない。
「案外、私のほうが正しいかもしれないわよ? 柴田くん、智美の演奏についてなんか言っていたの?」
「柴田くんが喋ろうとしたときに、早織が柴田くんを蹴り倒したんじゃない!」
「・・・そうだっけ?」
やっぱり覚えていない。そうか、私は柴田くんを蹴り倒したことがあったのか。あれ? じゃあなんで柴田くんは私に告白したの? ・・・彼、ひょっとしてマゾ? うわっ、係わり合いにならないようにしないと。
「でも、本人に確認を取ったわけじゃないんでしょう? 柴田くんが本当のところ何しに来たのかはわからないじゃない」
「うん、だから誘ってみて、来てくれたら、あのときのことを聞いてみたいの」
ふーん、なるほどね。まだ「気になる」って段階なのかな。でも夏の頃からってことは、相当思っていることは確かね。ふむふむ。
「じゃあどうするの? 私から電話するのは嫌だよ」
「う・・・」
その反応、私に頼むつもりだったわけね。何考えてんだか。自分の目的は自分で果たしてなんぼのものでしょ。
「柴田くん、化学部だったわよね? 学校で会えるかな」
智美は突然、そんなことを言い出した。直接会おうって事か。そうそう、ちゃんと行動しなきゃね。
「化学部の部活日、私たちとあんまり重なってないわよ」
そんなことをちょっと前に荒川が言っていた。あー、顔を思い出すだけで腹が立ってきた。
「・・・なんでそんなことを早織が知っているの?」
「へ? あ、いや、この間誰かから聞いたような覚えが・・・」
「次の部活がいつか、分からない?」
「え・・・調べればわからなくもないけど・・・」
「お願い! 調べて!」
智美が急に叫んだ。耳に悪いからやめて欲しいわ。しかも「調べて」って・・・荒川に聞くしかないじゃない。なんで私がそんなことを。しばらく会いたくもないわ、あんなやつ。
私の返事がないことに不安になったのか、智美はまた同じ事を繰り返した。
「お願い、早織。お礼はするから」
「お礼って?」
「今度、なんか奢るわ」
見返りがあるとなると、話はちょっと変わる。やってやれないわけじゃないし、私がちょっと我慢すればいいだけのことだから。
「お願いついでにもう一つあるんだけど、早織も一緒に来てくれるわよね?」
なにその私が来るの前提みたいな質問は。いつ私がそんなことを言ったのよ。
「ね? 『エペック』でクリームパフェを奢るから」
エペックというのは、学校の近くにある喫茶店のこと。学生向けの値段設定なのだけど、パフェだけは妙に高いという不思議な話がある。私も一度しか注文はしたことがないけど、おいしいけど値段を考えると自分でお金を払いたくない感じ。おごりなら大歓迎、ってことね。
「・・・しょうがないわね、ほかならぬ智美のためなら、一肌脱ぐわ」
「ありがとう早織! やっぱり早織に相談してよかったわ! じゃ、後はよろしくね」
智美は可愛くそう言って電話を切った。取り消されないために問答無用で切った、といった方が妥当かな。あ、なんかそう考えるとむかついてきた。
「・・・何の用だ?」
荒川がさすがに妙な顔をして私を見る。あんな形で出て行って、こんなに早く姿を現すとは思っていなかった、って感じ。私だって同感よ。
「うるさいわね。つべこべ言わず、次の部活の日を教えなさい」
色々言われると面倒なので、用件だけで済ますことにする。
「部活って化学部の?」
「あんた、他に入っているの?」
「そりゃ入ってないけど、なんでまたそんなことを?」
「いいから答えなさい」
「明日あるな。あいにく、その次は覚えてないが」
明日。ずいぶんと急な話ね。まあいいでしょ。善は急げ時は金なり。
「で、なんで?」
「じゃ、そういうことで」
私は再び荒川の前から去った。取り残された荒川は、間抜けな顔をして立ち尽くしていることだろう。そう思うと笑える。さっきと違って、気分はそう悪くない。
続く。
えぇっと、今までのブログを気分により突然閉鎖し新たなブログを立ち上げました。
内容は、今まで受験ばかりでつまらなかったブログを廃止し、普通の日記のようなものにしました。まぁ時々大きなニュースがあれば受験関係でもブログに更新するでしょうけど。ってことで。君のアドバイスどおりコメントには全部返事を書きます。だから、だから・・・コメントヨロシコ。では。