そういえばちょっと前に「卒業」的なお話を書いたことを思い出しました。
すでに時期はずれになっているかもしれませんが、
「卒業」じゃなくて「卒業的」だから良いか、と思い込んでアップしてみます。
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少年がそれを拾ったのは、高校からの帰り道だった。
駅から家までの道で、少年はある児童公園を横切る。普段から近道として利用しており、子供のころ遊んだ思い出もある、慣れた公園だ。部活で遅くなった今日も、当然のように利用した。
公園の、自転車進入禁止の柵を越えて、砂っぽい地面に足をつける。寒さのためか、少し固まっているような気がした。少年は、公園に設置されている時計を見た。もう七時を過ぎてしまっている。早く帰らないといけない、そう思って少し歩みを速める。
公園を出たところで、少年の足元で軽い音がした。どうやら、なにか蹴飛ばしてしまったようだ。少年は足を止め、自分の蹴ったものを探す。少しして、道路の脇の方にピンク色の球が落ちていることに気がついた。少年はそれを手にとって見る。
半径二センチほどだろうか。少年の掌に、たやすく納まるほどの大きさだ。プラスチック製で、非常に軽い。中身が入っていないことは当然だが、ずいぶんと薄く出来ていることもわかった。製造の途中で生じたらしい、針で刺したかのような小さい穴が開いている。砂埃が静電気で付着しているため、手触りはざらざらとして、あまり快くなかった。
少年はなんとなく辺りを見回した。この時間にひとがいることはめったにない。昼ごろは子供たちが遊んでいるのだろうが、最近ではそういった時間に帰宅していないことを思い出す。少年は、大方子供が落としたものだろうと思い、再びその球に目をやる。すると、暗くてわかりづらいが、表面に文字が書いてあることに気がついた。少年は目を近づけて、それを読み取る。
「しゅう」と書いてあった。おそらく、持ち主の名前だろう。球面に油性マジックで文字を書くのは難しい。子供の文字とはいえ、その文字は大きくゆがんでいた。
名前が書いてあるということは、それなりに大事なものなのだろうか。少年はそんなことを考えたが、こんなプラスチックの球が、大事なものとは思えなかった。ひょっとしたらこれひとつだけでは意味を成さず、何かとセットになるものなのかもしれない。だが、こんなものとセットになるものとは?
少し考えた後、少年はそれを地面に落としてみた。カン、と軽い音がして、球は地面に転がる。やはり跳ねないか。そうつぶやきながら、再び拾い上げる。
となると・・・もっと数があるのかな。この球の色はピンクだが、もしかしたらほかの色もあるのかもしれない。色とりどりの、たくさんの球。その中のひとつを落としてしまったということだろうか。
そういうことを考えながらも、少年の頭にはある種の解答が出ていた。子供はどうでもいいものをやたら大切にしたがる。価値があるから大切にするのは大人の発想で、子供は大切にすることで価値を生み出すのだ。その解答は、少年にとってもひどくつまらなかった。この球に、なにか価値を見出したかった。
少年はしばらくそれを眺めた後、ポケットに入れた。少しふくらみが邪魔だが、気になるというほどでもない。早く帰らないといけない、そう思って、少年は走り出した。
するとそのとき、突然道が明かりに照らされた。車だ。この道の先は大通りに出るので、時折車も通る。少年は狭い道の脇に移動し、車が通り過ぎるのを待つ。ポケットに入れた手で、先ほどの球をいじりながら。
寝る前にふと、制服のズボンからその球を取り出してみる。相変わらず付着している砂で手が汚れたので、洗面所で洗う。水を切って、ふたたび部屋に戻る。
明るい中で見ると、いっそうたいしたことのないものに見えた。いかにも安っぽい作りだし、少年がその気で握ったらたやすく割れてしまうであろう。先ほど地面に落として割れなかったは、運がよかったのかもしれない。少年はしばらく手の上でそれを弄んでいたが、やがて、思いついたように穴を覗いてみる。部屋の明かりが通過しており、中は明るく、ピンク色だ。少し水滴が入ってしまっているのが、少年には何とかわかる。そして、それ以上でも以下でもない。すこし拍子抜けしたような気分で、制服のポケットにしまいなおした。明日の朝、元の場所に置いておけば「しゅうくん」は見つけるだろう。そんなことを思った。
少年は道路にそっと球を置いた。地面のわずかな傾きで、球は転がっていく。朝早いため、人気はない。誰にも見られないでこの仕事を終えられたのは、運がよいような気がした。見られたら他人にどう思われたか、想像もつかない。少年は、なんとなくほっとする。とにかくこれでもう自分の責務を終えた、そう考えて、少年は公園に入った。
背後から、エンジン音が聞こえた。最初は何も気にならなかった。いつもこの時間には数台の車が通る。気にするほどのことではない。
だが、少年は思い直して引き返した。あの球が無事かどうか、妙に気になってしまっていた。さきほど球を置いた場所を見て、少年は思わずつぶやいた。
「あ」
道路には、ピンク色の破片が散らばっていた。破片は細かく、プラスチックがタイヤにつぶされて弾けたのであろうことが、簡単に想像できた。よく見ると、いくらかの破片に黒い部分があることもわかった。名前が書かれてあった部分であろう。
破片を眺めていると、少年の背後でクラクションが鳴った。少年が顔を上げると、また一台車が来ていた。少年は名残惜しいような気がしたが、公園に再び入る。それでも視線はまだ、道路を向いていた。
車が通り過ぎ、パチ、と軽い音が何回か聞こえた。様な気がした。もうあれほど細かく砕けていたのだから、これ以上細かくなることはまずないだろうし、あっても音は聞こえないだろう。少年の理性は、少年にそう告げていた。そしてその言葉に従うように、少年は踵を返した。
うむ、なんだかこっちは意味深ですね。
僕の方は好き勝手に行きますww。